THE DA VINCI CODE (CHAPTER 08) Translating...
Mật mã Da Vinci (tiếng Anh: The Da Vinci Code)
là một tiểu thuyết của nhà văn người Mỹ Dan Brown được xuất bản năm 2003 bởi
nhà xuất bản Doubleday Fiction (ISBN 0385504209). Đây là một trong số các quyển
sách bán chạy nhất thế giới với trên 40 triệu quyển được bán ra (tính đến tháng
3, 2006), và đã được dịch ra 44 ngôn ngữ.
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寄せ木張りの床に走り書きされた紫に光る文字に、ラングドンの目は釘づけになった。ジャック・ソニエールの最期のメッセージは、ラングドンが想像しうるどんな辞世の文句ともちがっていた。
13―3―2―21―1―1―8―5
0,Draconian devil!
Oh,la me saint!
13―3―2―21―1―1―8―5
おお、ドラコンのごとき悪魔め!
おお、役に立たぬ聖人め!
どういう意味かまるでわからないが、五芒星が悪魔崇拝となんらかの形で関連しているとファーシュが考えたのも無理はない。
―おお、ドラコンのごとき悪魔め!
ソニエールは文字どおり〝悪魔〟と言い残している。数字の羅列もそれに劣らず異様だ。「一部は数字の暗号のようですね」
「そうだ」ファーシュが言った。「すでに暗号解読課にまわしてある。この数字が犯人を知る鍵かもしれない。電話番号とか、身分証明書のたぐいの番号とか。それとも、この数字には何か象徴的な意味があるかね」
ラングドンはもう一度数字を見たが、なんらかの意味を探り出すには何時間もかかると思った。もちろん、ソニエールが意味をこめていたとしての話だ。これらの数字はまったくのでたらめに見えた。なにがしかの象徴的な意味づけのできる数列も知っているが、ここにあるものはすべて―五芒星も、ことばも、数字も―根本からまるで接点がないのではないだろうか。
「きみはさっき、ソニエールの行動にはある種のメッセージがこめられていると言ったな……女神崇拝とか、その手のものだ。これはその文脈にどうあてはまるんだ」
質問の形をとっているのはうわべだけにすぎない、とラングドンも承知していた。
ここに表明された奇怪なメッセージは、どう見ても女神崇拝というラングドンのシナリオにはそぐわない。
ドラコンのごとき悪魔? 役に立たぬ聖人?
「これは何かを非難したものらしい。そのことに異論はないな?」
死が迫っていると知りながらグランド・ギャラリーにひとり取り残されたソニエールの姿を、ラングドンは想像してみた。異論などあろうか。「犯人への非難なら筋が通ると思います」
「わたしの仕事はもちろん、その犯人を挙げることだ。ひとつ訊かせてくれ、ミスター・ラングドン。数字はさておき、きみから見てこのメッセージのいちばん奇妙な点はどこだ」
いちばん奇妙な点? 死にかけた男がギャラリーに自分を閉じこめて、体に五芒星を描き、床に不可解な非難のことばを走り書きした。何から何まで奇妙じゃないか。
「〝ドラコンのごとき〟でしょうか」最初に思いついたことをとりあえず言ってみた。死を目前にして、ドラコン―紀元前七世紀の冷酷な政治家―などという名が頭に浮かぶとはとうてい思えない。「〝ドラコンのごとき悪魔〟とは、妙なたとえです」
「そうかね」ファーシュは少しばかりもどかしそうに言った。「ソニエールがどんなたとえを選んだかなど、大きな問題ではないはずだが」
何を念頭に置いてそう言っているのかはわからないが、ドラコンとファーシュならばそりが合ったのではないかとラングドンはふと思った。
「ソニエールはフランス人だ」ファーシュが冷たい声で言った。「パリに住んでいた。にもかかわらず、このメッセージは……」
「英語ですね」ようやく警部の言わんとしていることがわかった。
ファーシュはうなずいた。「そのとおり。理由を思いつくかね」
ソニエールが完璧な英語を話すことは知っているが、最期のことばをあえて英語で書いた理由はわからない。ラングドンは肩をすくめた。
ファーシュはふたたびソニエールの腹の五芒星を指した。「悪魔崇拝との関係はないんだな? まだそう言いきれるか?」
言いきれることなど、もはや何もない。「使われている象徴とことばに食いちがいがあるようです。お役に立てなくて申しわけない」
「これを見ればはっきりするんじゃないか」ファーシュは死体から離れてもう一度ブラックライトを掲げ、もっと広い範囲に光線をあてた。「さあ、どうだ」
驚いたことに、死体の周囲に大きな円形が浮かびあがった。ソニエールは横たわってからペンで自分のまわりに長い弧をいくつか描き、円のなかに体がおさまる図を作りあげていた。
一瞬にして意味が明らかになった。
「〈ウィトルウィウス的人体図〉だ」ラングドンは息を呑んだ。レオナルド・ダ・ヴィンチのいちばん有名な素描の等身大の複製がそこにある。
当時の最も解剖学的に正しい図と見なされているダ・ヴィンチの〈ウィトルウィウス的人体図〉は、その後現代文化の象徴となり、ポスターからマウスパッド、Tシャッに至るまで、世界じゅうで使われている。この名高いスケッチに描かれているのは完全な円に内接した男の裸体であり、手脚を大きくひろげている。
ダ・ヴィンチ。ラングドンは博然として体の震えを感じた。ソニエールの意図はまざれもない。人生の最後の瞬間に服を脱ぎ、自分の全身をもってダ・ヴィンチの〈ウィトルウィウス的人体図〉を模したのである。
円が現れたために重要な要素がそろった。女性の保護本能を表す象徴である円が男性の裸体を囲むことで、ダ・ヴィンチの意図したメッセージが完成する―男女の調和だ。それにしても、なぜソニエールがかの素描を真似たのかは相変わらずわからない。
「ミスター・ラングドン」ファーシュが言った。「きみのような人間なら、レオナルド・ダ・ヴィンチが邪悪な絵を好んで描いたことを、むろん知っているはずだ」
ラングドンはファーシュのダ・ヴィンチに関する知識の深さに驚いた。それが発展して悪魔崇拝への疑念が芽生えた可能性は高い。ダ・ヴィンチは、とりわけキリスト教の伝統からすると、つねに歴史学者を悩ませる存在だった。先見の明を持つ天才である一方、異彩の同性愛者にして厳然たる自然の摂理の信奉者でもあり、神に対して永遠の罪を背負っていたに等しい。そして、常軌を逸した不気味なふるまいが悪魔的な印象を与えたことも否めない。ダ・ヴィンチは人体の構造の研究のために、死体を掘り返した。判読しにくい裏返しの文字を使い、怪しげな日記をつけた。鉛を金に変える錬金術の力が自分にあると信じ、不老長寿の霊薬を作って神を欺きもした。そのうえ、発明品のなかにはそれ以前には考えられなかった恐ろしい兵器や拷問具もあった。
誤解は疑惑を生むものだ。
ダ・ヴィンチはすばらしいキリスト教美術作品を多数生み出したが、かえってまやかしの信仰と叩かれるだけだった。ヴァチカンから実入りのいい仕事を何百も依頼されたダ・ヴィンチは、キリスト教をテーマとした作品を、おのれの信仰の表現としてではなく、商売の種として―豊かな暮らしを支える手段として―描きつづけた。さらに悪いことに、ダ・ヴィンチは自分を養ってくれる手にこっそり噛みついてはおもしろがるいたずら者だった。キリスト教にまつわる絵の多くに、キリスト教らしからぬ象徴をまざれこませることによって、自分の信じるものを讃え、教会を愚弄していたわけだ。ラングドンはロンドンのナショナル・ギャラリーで、〝レオナルドの秘密の生涯―キリスト教美術にひそむ異教の象徴〟と題する講演をしたことさえある。
「そうおっしゃるのもわかりますが」ラングドンは言った。「ダ・ヴィンチは実際に邪悪な絵を描いたのではありません。つねに教会と対立していたとはいえ、いたって敬虔な人物だったんですよ」そう言いながら、ふと奇妙な考えが頭に浮かんだ。ふたたび床のメッセージへ視線を落とす。おお、ドラコンのごとき悪魔め!おお、役に立たぬ聖人め!
「どうしたんだね」
ラングドンは注意深くことばを継いだ。「いま思ったんですが、ミスター・ソニエールは宗教に関してダ・ヴィンチと同じ思想を多くいだいていたのではないでしょうか。たとえば、教会が聖なる女性という観念を近代の宗教から消し去ったことへの反発などです。ひょっとしたら、ダ・ヴィンチの有名な素描を真似たのは、女神を悪魔扱いする教会に対する憤りを代弁させたにすぎないのでは」
ファーシュの目が険しくなった。「つまり、ソニエールは教会を役に立たぬ聖人だの、ドラコンのごとき悪魔だのと呼んだと言いたいのか」
突飛な考えなのはたしかだが、五芒星がその証拠だと言えなくもない。「ミスター・ソニエールは生涯かけて女神の歴史を研究してきた。その歴史を消してきたのはほかならぬカトリック教会だった。わたしが申しあげているのはそれだけです。最期のことばに失望感を盛りこんだとしても、不思議はない気がしますね」
「失望感?」ファーシュがこんどは敵意をむき出しに問いかけた。「このメッセージから読みとれるのは失望というより怒りじゃないか!」
ラングドンの忍耐は限界に近づいていた。「警部、あなたはミスター・ソニエールがここで何を伝えようとしたのかについて、わたしに意見を求めた。わたしは自分の考えを述べているだけです」
「で、教会への批判というのが答なのか」ファーシュは顎をこわばらせ、食いしばった歯の隙間から絞り出すように言った。「ミスター・ラングドン、わたしは仕事柄、数多くの死を見てきた。教えてやろう。まさに殺されようといういまわの際に、だれにも通じない、謎掛けもどきのあいまいなことばを書き残そうと思う人間がいるわけがない。考えるのはただひとつ」ファーシュのささやき声が空気を切り裂く。「復讐だよ。ソニエールがこれを書いたのは、自分を殺したやつを教えるためだ」
ラングドンは目を大きくした。「しかし、これじゃ何もわからない」
「そうか?」
「そうですよ」疲れて苛立ったラングドンは反撃に出た。「ミスター・ソニエールは執務室で、本人が招き入れたとおぼしき相手に襲われたということでしたね」
「ああ」
「となると、当然襲撃者は知り合いだったわけです」
ファーシュはうなずいた。「そうだな」
「では、もし犯人を知っていたのなら、いったいこれはどんな告発ですか」床を指さす。「数字の暗号? 役に立たぬ聖人? ドラコンのごとき悪魔? 腹に五芒星? どれもこれも難解すぎる」
ファーシュは思いも寄らなかったとでもいうように、顔をゆがめた。「そのとおりだ」
「どう考えても」ラングドンは言った。「もしミスター・ソニエールが犯人の正体を知らせたかったら、そいつの名前を書いたはずです」
ラングドンがそう言ったとき、今夜はじめてファーシュの唇を満足げな笑みがよぎった。「そのとおり」ファーシュは言った。「プレシゼマン」
これはまさに名人の技だ。コレ警部補は音響装置のつまみをひねり、ヘッドフォンから聞こえるファーシュの声に耳を傾けた。ファーシュ警部がフランスの捜査機関の頂点近くまでのぼりつめたのは、こうした瞬間の積み重ねだとコレは知っている。
ファーシュはだれにもできないことをやってのける。
人を誘導して口を割らせるこの繊細な技術は、近ごろの捜査機関ではほとんど失われている。それには、切迫した状況でも揺るがない強靭さが要求される。こうした作戦に必要な冷静さを身につけた人間はそう多くないが、ファーシュは生まれながらにそのひとりだった。ロボットさながらの抑制と忍耐を備えている。
今夜のファーシュは、まるでこの事件の逮捕に人生を賭けているかのように決然としている。一時間前に捜査官たちへ指示を与えたときには、簡潔で自信たっぷりだった。ファーシュは言った。ジャック・ソニエールを殺害した人物はすでに特定できた。何をすべきかは知ってのとおりだ。今宵、まちがいは許さない、と。
そしていまのところ、まちがいは起こっていない。
問題の人物が犯人だとファーシュが確信するに至った根拠はまだ知らないが、〝牡牛〟の勘には逆らわないはうがいい。ファーシュの直感はときに超自然的なほどだ。
その第六感がとりわけみごとに働いたとき、それを目のあたりにした捜査官が言ったことがある。神の声を聞いているのだ、と。もし神が存在するなら、べズ・ファーシュは神の重要人物リストに名前が載っているとコレも認めざるをえない。警部はミサや告解に足しげくかよっており、はかの捜査官が〝市民とよい関係を築くため〟に参列する回数よりもはるかに多い。数年前にローマ教皇がパリを訪れたとき、ファーシュはあの手この手を使って謁見の栄誉を授かった。教皇とともに撮った写真が、いまもファーシュのオフィスに掲げてある。捜査官たちはそれを〟教皇の大勅書〟とひそかに呼んでいた。
それにしても、ファーシュの態度として受けのよかった近年まれな例のひとつが、カトリックの小児性愛者スキャンダルが広まった折の歯に衣着せぬ批判だったというのも皮肉な話だ。「あんな聖職者どもは二度絞首刑にしろ!」ファーシュは声高に言ったものだ。「一度は子供たちに対して犯した罪、もう一度はカトリック教会の名を穢した罪だ」コレはなんとなく、ファーシュを怒らせたのは後者の理由が大きいと思っている。
コレはノート型パソコンに向かい、今夜のもうひとつの任務に注意をもどした―GPS追跡システムの監視だ。画面に見えるのは、ルーヴルの警備局から取り寄せたドゥノン翼の詳細な間取り図である。入り組んだギャラリーや廊下を目でたどり、探していたものを見つけた。
グランド・ギャラリーで、小さな赤い点が明滅している。
ラ・マルク―目標。
今夜、ファーシュは獲物をごく近くにつなぎ留めている。賢明だ。どうやらロバート・ラングドンは狡猾な相手らしい。
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