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THE DA VINCI CODE (CHAPTER 16) Translating...

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Mật mã Da Vinci (tiếng Anh: The Da Vinci Code) là một tiểu thuyết của nhà văn người Mỹ Dan Brown được xuất bản năm 2003 bởi nhà xuất bản Doubleday Fiction (ISBN 0385504209). Đây là một trong số các quyển sách bán chạy nhất thế giới với trên 40 triệu quyển được bán ra (tính đến tháng 3, 2006), và đã được dịch ra 44 ngôn ngữ.
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 ソフィーは考えていた。自分が建物から出ていないことをファーシュに気づかれるまでに、どれだけの時間があるだろうか。明らかに動転しているラングドンを見ると、この男をトイレへ呼び出したのが得策だったかどうか自信がなかった。
 ほかに方法があったというの?
 床に大の字になった祖父の全裸死体が目に浮かんだ。自分にとってかけがえのない人だった時期もあるのに、今夜この老人の死を悼む気持ちがほとんど湧かないことに、われながら驚いた。ジャック・ソニエールはすでに遠い存在となっていた。ソフィーが二十二歳だった年のある三月の夜、ふたりの絆は瞬時にして消えた。もう十年になる。イギリスの大学院から予定より数日早く帰省し、あることに祖父が携わっている姿を、はからずも目撃した。いまとなっても信じがたい光景だった。
 もしこの日で見なかったら……
 ソフィーは恥ずかしさと衝撃のあまり、祖父が苦しげに説明を試みる姿を見る気になれず、すぐにひとりで家を出た。貯金をはたいて、数人のルームメイトとともに小さなフラットを借りた。目にしたことについてはだれにも話すまいと心に決めた。一方、祖父は必死で連絡をとろうとした。カードや手紙を送りつけ、事情を説明するから会ってくれと懇願した。どう弁解するつもりなの? ソフィーは一度だけ返事を出した。電話をかけたり、外で呼び止めたりするのをやめさせるためだ。あの出来事そのものより、祖父の言いわけを聞かされるはうが忌まわしく感じられた。
信じがたいことに、ソニエールはけっしてあきらめなかった。ソフィーの戸棚の抽斗には、十年ぶんの未開封の手紙が残っている。ただし、ソフィーの要求どおり、一度として電話をかけてはこなかった。
 だが、きょうの午後に禁を破った。
「ソフィーかい」留守番電話から聞こえる声は驚くほど年老いていた。「長いあいだわたしは、おまえの望みどおりにしてきた。だから電話をするのは心苦しいが、きょうは話さなくてはならない。恐ろしいことが起こったのだよ」
 久しぶりに祖父のことばを耳にして、ソフィーは自室のキッチンで身震いした。やさしい声に子供のころへ引きもどされ、甘い思い出に包まれた。
「ソフィー、聞いておくれ」祖父は以前の習わしのまま、英語で話していた。学校ではフランス語、家では英語を使いなさい、とよく言われたものだ。「いつまでも腹を立てるものではないよ。長年送りつづけた手紙を、おまえは読まなかったのかい?まだわかってもらえないのかい」少し間があった。「すぐに話をしなくてはならない。わたしのたっての願いを聞き入れておくれ。ルーヴルに電話をしてもらいたい。いますぐに。わたしたちは重大な危険にさらされている」
 ソフィーは電話機を見つめた。危険? なんのことだろうか。
「プリンセス……」祖父の声はかすれているが、どんな思いを宿しているのか、ソフィーにはわからなかった。「たしかにわたしは隠し事をしていたし、そのせいでおまえの信頼を失ったことも承知している。だがそれはおまえの身の安全を守るためだった。いまこそ真実を知らせなくてはならない。どうしてもおまえに、家族にまつわる真実を伝えなくては」
 突然、自分の心臓の音が聞こえた。家族? 両親はソフィーがまだ四歳のときに亡くなった。乗っていた車が橋から川の急流へ転落したらしい。祖母と弟も同乗しており、ソフィーは家族のほとんどをいちどきに失った。それを裏づける新聞の切り抜きが、いまも箱に残っている。
 祖父のことばが呼び水となって、不意に熱い思いが全身を貫いた。家族!その刹那、幼いころ何度となく見た、目覚め際の夢の一場面が脳裏に浮かんだ。みんな生きている!もうすぐ帰ってくる!しかし夢の常で、その光景は忘却のかなたへ消えていった。
 みんな死んでしまったのよ、ソフィー。もう帰ってこない。
「ソフィー……」留守番電話から祖父の声が聞こえた。「わたしはおまえに言おうと、何年も待っていた。潮時を見計らっていたのだが、もう時が尽きた。ルーヴルに電話をかけなさい。これを聞いたらすぐにだ。夜通し待っている。わたしたちの両方に危険が迫っているらしい。おまえには知るべきことがたくさんある」
 メッセージが終わった。
 静寂のなかで、ソフィーは何分にも思える時間、震えながら立ちつくしていた。このメッセージの意味として考えられるものはひとつだけであり、祖父の意図が読めたと思った。
 これは罠だ。
 祖父が自分に会いたい一心でしたことにちがいない。なんでも試みるつもりなのだろう。祖父への嫌悪の念がいっそう深まった。もしかすると難病にかかり、最後に一度でも孫を呼び寄せようと、なりふりかまわず策を講じたのだろうか。だとしたら、巧妙な手立てだ。
 家族。
 いま、ルーヴルの男性用トイレの暗がりで、午後に聞いた電話のメッセージが繰り返し耳に響いたわたしたちの両方に危険が迫っているらしい。ルーヴルに電話をかけなさい。
 ソフィーは電話をしなかった。するつもりもなかった。ところが、勘ぐったのは大まちがいだった。祖父はこの美術館で殺され、いまも横たわっている。床に暗号を書き残したまま。
 この自分に伝えるための暗号だ。それには確信があった。
 メッセージの意味はわからないものの、その謎めいたことばづかいからも、自分へ向けられているのは明らかだった。ソフィーの暗号解読への情熱と才能は、謎解きやことば遊びやパズルの愛好家であるジャック・ソニエールに育てられたおかげで培われた。ふたりでどれだけの日曜日を、暗号文や新聞のクロスワード・パズルの解読に費やしたことだろう。
 十二歳のとき、ソフィーは《ル・モンド》紙のクロスワード・パズルをだれの助けも借りずに解けるようになったので、ソニエールは段階を進めて、英語のクロスワードや数学のパズルや換字式暗号を解かせることにした。ソフィーはそのすべてを貪るように吸収し、やがてその情熱を仕事に転化すべく、司法警察の暗号解読官になった。
 今夜、祖父が単純な暗号を使って、まったく面識のないふたりの人間自分とロバート・ラングドンーを結びつけたその手際に、ソフィーは暗号技術者として脱帽せざるをえなかった。
 問題は、なぜそんなことをしたかだ。
 残念ながら、ラングドンの困り果てた目つきから察するに、祖父が自分たちふたりを引き合わせた理由を、このアメリカ人が自分よりよく知っているとは思えなかった。
 ソフィーは問いかけた。「あなたと祖父は今夜会う予定だったのね。どんな用件で?」
 ラングドンは心底当惑しているらしい。「ミスター・ソニエールの秘書が会見を申し入れてきたんだが、特に理由は言わなかったし、こちらも尋ねなかった。たぶん、フランスの大聖堂に見られる異教の図像をテーマにわたしが講演するのを知って興味を覚え、講演会のあとで軽く飲みながら話したいと考えたんじゃないだろうか」
 ソフィーにはそう思えなかった。根拠が弱すぎる。異教の図像に関する知識で、祖父に並ぶ者はいなかった。そのうえ祖父は孤高を愛する人間であり、たまたま名前を聞き知った程度のアメリカ人の教授と、たいした理由もなく会話に興じるような性格ではない。
 ソフィーは深呼吸をひとつして、さらに追及した。「祖父はきのうの午後電話をかけてきて、わたしも含めてひどく危険な状態にあるというメッセージを残したの。何か思いあたることはあるかしら」
 ラングドンの青い目が不安げに曇った。「いや。しかし起こったことを考えるとまさに……
 ソフィーはうなずいた。今夜の事件を考えれば、自分は恐れを知らない愚か者だったと言える。気力の萎えを感じながらも、トイレの突きあたりにあるガラスの小窓へ向かい、張りめぐらされた警報用の網越しに無言で外を見おろした。ここは高い地面まで四十フィートはある。
 ため息をついて目をあげ、輝くパリの夜景を見渡した。左手には、セーヌ川の向うにライトアップされたエッフェル塔。前方には凱旋門。そして右手には、なだらかなモンマルトルの丘の頂上に、サクレ・クール寺院の優美なアラビア風のドームが見える。光沢のあるその白い外壁は聖なる輝きを帯びている。
 ここはドゥノン翼の西端で、チュイルリー公園の手前を南北に走る道がほぼ接しており、建物の外壁とのあいだにはせまい歩道があるだけだ。はるか下では、いつもと同じく夜間運行の配送トラックの列がエンジンを吹かしながら信号待ちをしている。
 きらめく走行灯がこちらを見あげてあざ笑っているかのようだ。
「どう言ったらいいのか」ラングドンがそばに来て言った。「ミスター・ソニエールがわたしたちに何かを伝えようとしていたことだけは確実だ。まるで役に立たなくてすまないが」
 ソフィーは窓から目を離して振り向いた。深みのあるラングドンの声に、心からの哀悼の響きが感じられた。とんでもない厄介事に巻きこまれながらも、力を貸してくれようとしている。根っからの教師だと思った。司法警察による人物調査書には目を通してある。物事を解明せずにはいられない、学究肌の人間だ。
わたしたちの共通点ね。
 暗号解読官であるソフィーは、一見無意味な情報から意味を引き出すことを日ごろからおこなっている。今夜の頼みの綱は、ラングドンが自分でもそれと気づかぬうちに、こちらが必要とする情報を持っている可能性だった。〝プリンセス・ソフィー、ロバート・ラングドンを探せ〟。祖父のメッセージの真意はなんだろうか。ラングドンと過ごす時間がもっと必要だと思った。考える時間が。この謎をともに解明する時間が。にもかかわらず、時間は尽きていく。
 ラングドンを見つめながら、ソフィーは考えつくままに言った。「ファーシュはすぐにでもあなたを勾留するつもりよ。この美術館から抜け出す手助けをしてあげる。ただし、いますぐ行動を起こして」
 ラングドンは目を大きく見開いた。「逃げろと言うのか」
「それがいちばん賢明な方法なの。いまファーシュに捕まったら、あなたはこの国で投獄され、フランス司法警察とアメリカ大使館が主導権争いをするのを何週間も待たされる羽目になる。だけど、ここから逃げて大使館にたどり着けば、アメリカ政府の保護を受けながら、あなたがこの殺人事件と無関係であることをふたりで証明できるわ」
 ラングドンは少しも納得していない様子だった。「無理だ!ファーシュは武装した部下をどの出口にも配備している。もし撃たれずに逃げおおせたとしても、ますます犯人扱いされるだけだ。床のメッセージはきみに宛てたもので、わたしを告発するためのものじゃないということを、まずきみからファーシュに話してもらうはかない」
「もちろん話すつもりよ」ソフィーは早口でつづけた。「でも、それはあなたが大使館へ無事に着いてから。ここからたった一マイルほどだし、わたしの車がこのすぐ近くに停めてある。この場に残ってファーシュとやり合うのは危険が大きすぎるのよ。わかるでしょう? 今夜のファーシュは、あなたを犯人にすることが自分の使命だと決めこんでる。これまで逮捕せずにいたのは、あなたに何かぼろを出させて、犯人だという確証を得たかったからだわ」
「そのとおりだ。逃げたら向こうの思う壺じゃないか!」
 ソフィーのセーターのポケットで、携帯電話が突然鳴りだした。たぶんファーシュだろう。ソフィーはポケットに手を入れて電源を切った。
「ミスター・ラングドン」急いで言う。「最後の質問をさせて」先行きのすべてがその筈に左右されるかもしれない、と思った。「床のメッセージは、あなたが有罪だという決定的な証拠というわけでもない。それなのにファーシュは、あなたがまちがいなく犯人だとわたしたちに言いきった。ファーシュがそう信じる理由を、はかに何か思いつく?」
 ラングドンは数秒間黙考した。「まったく何も」
 ソフィーはため息を漏らした。それでは、ファーシュが嘘をついているのだろうか。なぜだろう。ソフィーには想像もつかなかった。だが、いまはそのことを深く考えてはいられない。ファーシュが今夜なんとしてもラングドンを逮捕すると決めていることに変わりはないのだから。いまの自分はラングドンを必要としているが、この苦境では、採るべき道はひとつしかない。
 アメリカ大使館へ連れていかなくては。
 ソフィーは窓に向きなおり、板ガラスにめぐらされた網目を透かして、目もくらむ四十フィート下の舗装道路を見おろした。この高さから飛びおりたら、ラングドンは両脚を骨折するだろう。運がよくても。
 それでもソフィーは決断した。

 ロバート・ラングドンはルーヴルから脱出することになる。本人が望むと望まざるとにかかわらず。

Unknown

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