THE DA VINCI CODE (CHAPTER 10) Translating...
Mật mã Da Vinci (tiếng Anh: The Da Vinci Code)
là một tiểu thuyết của nhà văn người Mỹ Dan Brown được xuất bản năm 2003 bởi
nhà xuất bản Doubleday Fiction (ISBN 0385504209). Đây là một trong số các quyển
sách bán chạy nhất thế giới với trên 40 triệu quyển được bán ra (tính đến tháng
3, 2006), và đã được dịch ra 44 ngôn ngữ.
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導師が用意した黒いアウディの運転席で、シラスは偉大なるサン・シュルピス教会を見つめていた。投光器の明かりに下から照らされて、ふたつの鐘楼が教会堂の細長い建物の上に、屈強な斥候兵よろしくそびえ立っている。どちらの側面にもなめらかな控え壁がいくつか張り出し、陰影を帯びたそのさまは美しい獣の肋骨のように見える。
邪悪な者どもは神の家にキー・ストーンを隠した。音に聞こえたまやかしと策謀の歴史が、またも事実だと判明した。キー・ストーンを見つけて導師に渡し、あの組織が遠い昔に敬虔な信者たちから奪ったものを取りもどさなくては。
それがあれば、オプス・デイはどれほど強大な力を手にできることか。
人通りのないサン・シュルピス広場にアウディを停めて大きく息を吐き、これから取りかかる仕事に気持ちを集中させようとした。肉の苦行をおこなったせいで、広い背中がまだ痛む。だが、オプス・デイに救われる以前の人生で味わった苦しみを思えば、こんなものは高が知れている。
昔の記憶は、いまだに頭から離れなかった。
憎しみを忘れろ。シラスは自分に言い聞かせた。おまえを踏みつけた者たちを許せ。
サン・シュルピス教会の石造りの塔を見あげながら、シラスはいつもの暗流と闘っていた。それは強い力で心を過去へ引きもどし、若き日に世界のすべてだったあの監獄にふたたび自分を閉じこめる。いつもと同じく、その記憶は嵐のように五感を襲う。腐ったキャベツの悪臭と、死や糞尿のにおい。吹きすさぶピレネーの風を突く絶望の叫びと、忘れ去られた男たちのわびしいすすり泣き。
アンドラ。思い出すと筋肉がこわばるのがわかる。
スペインとフランスにはさまれた不毛の小国。石の監房で震え、ただ死ばかりを願っていたとき、信じられないことにシラスは救われた。
そのときは気づかなかった。
光が訪れたのは、雷鳴のはるかあとだ。
当時はシラスという名ではなかったが、親から与えられた名前は思い出せない。七歳のときに家を出た。たくましい港湾労働者だった父親は大酒飲みで、色素欠乏症の息子が生まれると激昂し、それを妻のせいにして再三殴りつけた。母を庇おうとする息子もまたひどく殴られた。
ある夜、すさまじい争いがあり、母は二度と起きあがらなかった。少年は死んだ母のそばに立ち、阻止できなかったことへの耐えがたい罪悪感に苛まれた。
ぼくのせいだ!
まるで悪魔のたぐいに体を支配されたがごとく、少年は台所へ行って肉切り包丁をつかんだ。そして取り憑かれたように、父の酔いつぶれている寝室へと向かった。何も言わず、父の背中を刺した。痛みに叫び声をあげてのたうつ父を、少年はまた刺した。部屋が静寂に陥るまで、何度も何度も。
少年は家から逃げ出したが、マルセイユの路上でも冷たく迎えられた。その外見のために若い放浪者たちからも仲間はずれにされ、波止場で盗んだ果物や生魚を食べながら、荒れ果てた廃工場の地下でひとり過ごした。友と言えばごみの山で見つけたぼろぼろの雑誌だけで、そこから字を覚えた。少年は徐々にたくましくなった。十二歳のとき、倍ぐらい年かさのホームレスの女が因縁をつけ、食べ物を奪おうとしたが、少年は女を叩きのめして半殺しにした。少年は警察に取り押さえられ、最後通告を受けた―マルセイユを去るか、少年刑務所にはいるか。
そこで、海岸沿いにトゥーロンへと移った。やがて、路上で浴びせられる視線が憐れみから恐怖のそれへ変わっていく。少年は屈強な若者に育っていた。人々が通り過ぎるときにささやき合うのが聞こえた。幽霊だぞ。真っ白な肌を凝視し、恐怖に目を見開いて言う。悪魔の瞳を持った幽霊め!
少年も自分が透明な幽霊であるかのように感じながら、港から港へと漂った。
自分の姿を人々が透かして見ている気がした。
十八歳のころ、ある港町で貨物船からハムをひと箱盗もうとして、乗組員ふたりに捕まった。自分に殴りかかるその男たちから、父と同じビールのにおいがした。恐怖と憎しみの記憶が怪物のように深みから頭をもたげ、少年はひとりの首を素手でへし折った。もうひとりは同じ目に遭う寸前にどうにか警察に救われた。
二か月後、少年は手伽足伽につながれてアンドラの監獄に着いた。
おまえ、幽霊並みに白いな。冷えきった裸の男を看守が連れてきたとき、囚人たちはあざけった。あの幽霊を見ろ!幽霊ならきっと壁を通り抜けられるぜ!
十二年がたち、自分がほんとうに透明になったかと思うほど、肉体も魂も衰えた。
おれは幽霊だ。
おれには重さがない。
おれは幽霊だ……幻影のように青白い……世界をひとりぼっちで歩く……
ある夜、はかの囚人たちの叫び声で目覚めた。床を揺さぶる目に見えぬ力がなんだったのかも、監房の石壁を埋めるモルタルを震わせるのがどんな偉大な手なのかもわからないが、飛び起きたとき、自分が寝ていたまさにその場所に大きな石が落ちてきた。見あげると、揺れる壁に穴があいているのがわかった。そしてその向こうに、十年以上目にしなかったものが見える。月だ。
まだ地面の揺れもおさまらぬうちに、せまい穴をくぐって広々とした景色のなかへ抜け出し、山間の荒れ野から森へと転がるように駆けていった。空腹と疲れで朦朧としつつも、下り坂をひと晩じゅう走りつづけた。
無意識との狭間をさまよいながら、明け方には、森が切り開かれて鉄道線路が通る一角に着いた。夢うつつのまま線路伝いに歩く。空の貨物車両を見つけ、ねぐらを求めてもぐりこんだ。目が覚めたとき、列車は動いていた。どれだけ時間がたったのか。どこまで来たのか。腹が痛くなってきた。自分は死ぬのだろうか。ふたたび眠る。つぎに気がついたときには、何者かに怒鳴られ、殴られ、車両からはうり出された。血を流しながら小さな村のはずれを歩きまわったが、食べ物を探し出せない。とうとう力尽きて一歩も動けなくなり、道端に身を横たえるや意識を失った。
光はゆっくりと訪れた。死んでからどのくらいたったのだろう、と思った。一日、それとも三日? どうでもよかった。ベッドは雲のように柔らかく、あたりの空気は甘い蝋燭の香りがする。イエスがそこにいて、自分を見おろしていた。わたしはここにいます、とイエスは言った。石が動き、あなたは生まれ変わったのです、と。
彼は眠り、また日を覚ました。思考は靄に包まれている。天国など信じたことがないのに、イエスに見守られている。食事がベッド脇に置かれ、彼はそれを食べた。骨のまわりに肉が形作られていくのが感じられるほどだ。ふたたび眠りに落ちた。目をあけたとき、イエスが微笑みながらこう語りかけた。息子よ、あなたは救われました。わたしの道に従う者には幸があります。
彼はまた眠った。
苦悶の叫びが聞こえ、まどろみが断ち切られた。ベッドから跳ね起き、声のするほうへと廊下を突き進んだ。台所にはいると、大男が別の男を殴っていた。理由がわからぬまま、彼は大男につかみかかり、思いきり壁に叩きつけた。大男は逃げ、彼は残された司祭服姿の若い男に歩み寄った。鼻を砕かれて血まみれの司祭を抱きあげ、ソファーへ運んだ。
「友よ、ありがとう」司祭はぎこちないフランス語で言った。「泥棒が献金をねらうのだよ。あなたは寝言でフランス語をしゃべっていた。スペイン語はわかるだろうか」
彼は首を横に振った。
「名前は?」司祭はたどたどしいフランス語でつづけた。
彼は親がつけた名前を覚えていなかった。監獄の看守たちに呼ばれるひどい仇名しかわからない。
司祭は笑みを漂わせた。「問題はない。わたしはマヌエル・アリンガローサ。マドリードの宣教師だよ。ここに来たのは、神の御業の教会を建てるためだ」
「ここはどこだ」うつろな声で尋ねる。
「オビユドだよ。スベイン北部の」
「おれはどうしてここに?」
「だれかが戸口に運んできたのだよ。あなたは具合が悪かった。食べ物を出したのはわたしだ。もう何日にもなる」
彼は世話をしてくれた若い司祭を見つめた。人から親切にされたのは何年ぶりだろう。「ありがとう、神父さん」
司祭は血のついた自分の唇にふれた。「礼を言うべきなのはこちらだよ」
朝になって目覚めたとき、彼は事態をはっきり悟った。ベッドの上の壁に掲げられた十字架像を見あげる。もう話しかけてはこないものの、それがあることに安らぎを感じた。体を起こしたとき、驚いたことに、ベッド脇のテーブルに新聞の切り抜きが置かれているのがわかった。記事はフランス語で、一週間前のものだ。読み終えると恐怖が全身を貫いた。山岳地帯で地震があり、監獄が崩壊して危険な犯罪者がおおぜい逃げたと書かれている。
心臓が早鐘を打ちはじめた。司祭はこちらが何者かを知っている!そのときの気持ちは、しばらく忘れていたものだった。恥じらい。罪悪感。それらが、捕まるかもしれない恐怖と混じり合っている。彼はベッドから飛び出した。どこへ逃げる?
「使徒行伝を」戸口から声が響いた。
彼は怯えつつ振り向いた。
司祭が微笑んではいってきた。鼻に不恰好に包帯を巻き、一冊の古い聖書を差し出している。「フランス語版を見つけたよ。章にしるしをつけてある」
よく呑みこめないまま、彼は聖書を手にとって、司祭がしるしをつけた章を見た。
使徒行伝十六章。
そこには、鞭で打たれて牢へ入れられたシラスという囚人が、神への賛美の歌をうたったと書かれていた。二十六節まで来ると、彼は衝撃に息を呑んだ。
〝……にわかに大いなる地震起こりて獄舎の土台震え動き、その戸たちどころにみな開け……。〟
目を司祭に注いだ。
司祭はやさしく笑った。「友よ、ほかに名前がないのであれば、これからシラスと呼ばせてもらおう」
彼は呆然とうなずいた。シラス。自分は肉体を与えられた。わが名はシラス。
「さあ、朝食の時間だ」司祭は言った。「この教会を築く手伝いをしてくれるとしたら、力をつけてもらわないと」
地中海の上空二万フィートでは、乱気流に揺さぶられるアリタリア航空一六一八便のなかで、乗客たちが不安な時間を過ごしていた。アリンガローサ司教は周囲の様子にほとんど気づいていなかった。頭のなかはオプス・デイの将来のことでいっぱいだ。パリでの計画の進み具合が知りたくて、シラスに電話をかけたくてたまらないが、それは導師から固く禁じられている。
「あなたの安全のためです」導師はフランス語訛りの英語で言ったものだ。「わたしは電子通信に精通していますが、この手のものは傍受される恐れがありましてね。あなたにとっては身の破滅につながりかねない」
そのとおりだ。導師は極端に用心深い人物らしい。かつてこの男は、自分の素性を明かさないまま、指示に従う価値のある人間だと証明してみせた。どんな手を使ったのかわからないが、途方もない極秘情報を手に入れていた。あの組織の頂点に立つ四人の名前。導師は驚くべきものを掘りあてるつもりだと宣したが、それが口先だけではないと司教が信じるに至った理由のひとつは、その情報である。
「司教」導師は言った。「手筈はすべて整えました。計画を成功させるには、数日間、シラスをわたしの指示だけに従わせる必要があります。あなたは連絡を控えていただきたい。わたしが安全な手段で伝えます」
「敬意をもって接してくれるだろうな」
「信仰の篤い者は最大の敬意に値します」
「ありがたい。では、承知した。この件が片づくまで、わたしはシラスとの連絡を絶つ」
「あなたとシラスそれぞれの立場、そしてわたしの情熱を守るためです」
「情熱?」
「あなたが進捗状況をあまりに知りたがって投獄でもされたら、わたしに報酬を支払えません」
司教は微笑んだ。「なるほど。われわれの望みはひとつだ。成功を祈ろう」
二千万ユーロか。飛行機の窓の外を見つめながら、司教は考えた。米ドルでもほぼ同じ数字になる。それによって与えられる力の大きさを考えたら、安いものだ。導師とシラスがしくじるはずはない、とあらためて確信した。金と信仰は強力なよりどころだ。
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