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THE DA VINCI CODE (CHAPTER 04) Translating...

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Mật mã Da Vinci (tiếng Anh: The Da Vinci Code) là một tiểu thuyết của nhà văn người Mỹ Dan Brown được xuất bản năm 2003 bởi nhà xuất bản Doubleday Fiction (ISBN 0385504209). Đây là một trong số các quyển sách bán chạy nhất thế giới với trên 40 triệu quyển được bán ra (tính đến tháng 3, 2006), và đã được dịch ra 44 ngôn ngữ.
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 べズ・ファーシュ警部は怒れる牡牛のごとく、広い肩をそびやかし、顎を胸もとまで強く引いていた。黒っぼい髪を油で後ろになでつけているので、中央が矢じりのようにとがった生え際がひどく目立ち、額が戦艦の船首よろしく突き出している。警部が歩くと、暗い色の瞳が前方の床を焦がさんばかりの明噺さを放つ。何事にも動じない厳格さが見てとれる。
 ラングドンは警部に従って、ガラスのピラミッドの下にある地下の広場へと、名高い大理石の階段をおりていった。途中、マシンガンを持った警察官ふたりのあいだを通り抜けた。その意味するところは明らかだ。今夜はファーシュ警部の許しがなければ、何者も出入りできない。
 地下へ向かいながら、ラングドンはこみあげる恐怖と闘った。ファーシュの態度が歓迎とはほど遠いうえ、ルーヴルそのものがこの時間は墓地に等しい空気を醸し出している。階段は暗い映画館の通路のように、一段ごとに埋めこまれた足元灯のほの明かりに照らされている。自分の足音が頭上のガラスにこだまする。目をあげると、透明な屋根の外側に、微光でかすむ噴水のしぶきが見えた。
「どう思うね」いかつい顎を上に向けて、ファーシュが尋ねた。
 ラングドンはゲームに飽き、ため息をついた。「ええ、みごとなピラミッドです」
 ファーシュはうなり声をあげた。「パリの顔につけられた傷だ」
 ストライク・ワン。ラングドンはこの相手の扱いにくさを悟った。ファーシュが知っているかどうかは定かでないが、ミッテラン大統領の明確な指示により、このピラミッドにはぴったり六百六十六枚のガラス板が使われている666は悪魔の数字だとする陰謀論者たちのあいだで、この奇妙な指示はつねに議論の的となってきた。
 その話題を持ち出すのはやめよう、とラングドンは思った。
 さらにおりていくと、開けた空間が暗がりから徐々に全貌を現した。地下五十七フィートの深さに新しく造られた七万平方フィートのロビーは、果てしなくひろがる洞窟のようだ。地上にあるファサードの蜂蜜色の石材に合わせて、暖色の大理石を用いたこの地下ホールは、ふだんなら日の光と観光客があふれて、活気に満ちている。しかし今夜のロビーは暗く静まり返り、空間全体に冷たい地下墓所の雰囲気が漂う。
「ところで、美術館の正規の警備員はフ」ラングドンは尋ねた。
「はかの場所へ移した」ファーシュは答えた。自分のチームの信頼性を疑われたとでも言いたげな口ぶりだ。「今夜、何者かが警備の隙を突いて侵入したのはまちがいない。夜間職員全員をシュリー翼に集めて、事情聴取をしているところだ。今夜はかわりにわたしの部下が警備についている」
 ラングドンはうなずき、ファーシュに遅れまいと歩を速めた。
「ジャック・ソニエールとはどういった知り合いだ」
「実は、まったく知りません。面識がないんです」
 ファーシュは驚いたように見えた。「今夜はじめて会う予定だったのか」
「ええ。アメリカン大学での講演のあとにパーティーで会う約束をしていたんですが、向こうが姿を見せなくて」
 ファーシュは小さな手帳に何やら走り書きをした。歩きながら、ルーヴルのもうひとつのピラミッドあまり知られていないほうがラングドンの目にはいった。
逆さピラミツド上から鍾乳石のように逆さ吊りになった巨大な天窓である。ファーシュに導かれ、短い階段をのぼってアーチ形のトンネルの入口に着くと、上に〝DENON〟と記されていた。ドゥノン翼はルーヴルの三大棟のなかで最もよく知られている。
「今晩会おうと言いだしたのはどっちだ」ファーシュが唐突に尋ねた。「きみか、ソニエールか」
 どことなく奇妙な質問だ。「ミスター・ソニエールです」ラングドンはトンネルを進みながら答えた。「二、三週間前にあちらの秘書がEメールをくれましてね。わたしが今月パリで講演をすると聞いて、滞在中に何か話し合いたいことがあるとか」
「何を話し合う」
「わかりません。美術についてでしょうね。わたしたちは同じようなものに関心を寄せていましたから」
 ファーシュはいぷかしげな顔をした。「面会の目的がわからない?」
わからなかった。あのときは不思議に思ったが、詳細を問い詰めるのも気が引けた。
高名なジャック・ソニエールは人ざらいとしても知られ、なかなか他人と接触したがらないと言われていた。ラングドンとしては、会う機会が得られるだけでありがたかった。
「ミスターラングドン、被害者はきみと会う予定だった夜に殺されたんだよ。何を話したかったか、せめて想像くらいつかないのか。手がかりになるかもしれない」
 的を絞った質問が気に障った。「ほんとうに心あたりがないんです。わたしも尋ねませんでした。ともかく、連絡をいただいただけで光栄でしたから。わたしはミスター・ソニエールの研究に心酔していました。著書を教材にさせてもらうこともよくあります」
 ファーシュは手帳にその事実を書き留めた。
 ふたりはドゥノン翼の入口をなすトンネルの中ほどにいた。はるか前方に二基の上りエスカレーターが見えるが、どちらも止まっている。
「館長と共通の関心を持っていたということだが」
「はい。実は昨年、わたしはある本の原稿にかかりきりだったんですが、それはミスター・ソニエールの主たる専門分野を扱ったものでしてね。だから、脳みそを拝借できるのを楽しみにしていました」
 ファーシュが顔をあげた。「なんだって?」
 どうやら英語の言いまわしが通じなかったらしい。「その主題について、意見をうかがうのを楽しみにしていたんですよ」
「そうか。その主題というのは?」
 ラングドンはどう説明したらよいのかわからず、口ごもった。「大ざっばに言って、女神崇拝の図像学に関する本ですつまり、神聖なる女性という概念と、それに関する美術や象徴について」
 ファーシュは肉づきのいい手で髪を梳いた。「で、ソニエールはその分野に精通していたのか」
「だれよりもです」
「なるほど、わかった」
 ファーシュはまったくわかっていまい。ジャック・ソニエールは女神の図像学の第一人者だった。豊餞神や女神崇拝や魔術信仰や聖女にまつわる資料研究に情熱を注いでいたばかりではない。館長として在任した二十年間を通して、女神にゆかりのある美術品をルーヴルに集め、世界最大のコレクションを作りあげている。デルフィにあるギリシャ最古の女神神殿から運んだ両刃の斧。神々の使者ヘルメスの黄金の杖。古代エジプトで悪魔退散の儀礼に使った打楽器シストルム。天使の立像にも似た、エジプトの女神イシスの護符は何百とある。息子ホルスを抱くイシスの像に至っては、数えきれないほどだ。
「おそらくソニエールはきみがその原稿を書いていると知っていたんだろう」ファーシュが言った。「それで、執筆に協力するために会おうとした」
 ラングドンは首を横に振った。「その本についてはまだだれも知りません。いまのところ草稿の段階で、担当編集者にしか見せていませんから」
 ファーシュは口をつぐんだ。
 ラングドンは、ほかのだれにも原稿を見せていない理由にはあえてふれなかった。
三百ページに及ぶその本仮題は『失われた聖女の象徴』では、従来の宗教図像学に型破りの解釈を加えており、物議を醸すにちがいない。
 動いていないエスカレーターのそばまで来て、ラングドンは足を止めた。ファーシュの姿が横から消えている。振り返ると、数ヤード後ろの高齢者・障害者用エレベーターの前にいた。
「エレベーターを使う」扉が開いたとき、ファーシュは言った。「知ってのとおり、展示室まで歩くのはかなり骨が折れる」
 エレベーターに乗ればドゥノン翼の上階までの長い道のりが短縮されるのは承知しているが、ラングドンは動けずにいた。
「どうした?」ファーシュは苛立たしげに扉を押さえている。
 ラングドンは大きく息をつき、吹き抜けのエスカレーターを未練がましく見あげた。なんともないさ、と自分に嘘をつき、重い足どりでエレベーターに向かった。子供のころ、使われていない井戸に落ちたことがある。せまいなかで水に浸かったまま何時間も救出を待ち、瀕死の思いを味わった。それからというもの、閉ざされた空間エレベーター、地下鉄、スカッシュ・コートなどがこわくてたまらない。エレベーターはきわめて安全な機械だと繰り返し自分に言い聞かせるが、本心では納得できない。出口のないシャフトに宙ぶらりんの、ちっぽけな金属の箱じゃないか!息を凝らしてエレベーターに乗り、扉が閉まるや、例のごとくアドレナリンが噴き出すのがわかった。
 二階ぶんあがるだけだ。十秒ですむ。
 エレベーターが動きはじめると、ファーシュは言った。「ソニエールとは話をしたこともないのかね。連絡をとったことも、郵便で何かを送り合ったこともないと?」
 また奇妙な質問だ。ラングドンはかぶりを振った。「ありません」
 ファーシュはその事実を頭のなかにメモするかのように首をひねった。そして、何も言わずにクロムの扉をまっすぐ見据えた。
 のぼっていく途中、ラングドンは四方の壁以外の何かに集中しようとつとめた。光沢のある扉に、警部のネクタイ留めが映っている銀の十字架に、十三個の黒いオニキスが埋めこまれたものだ。これにはいささか驚かされた。この象徴はクルクス・ゲンマタ十三個の宝石がついた十字架と呼ばれるキリスト教の表意記号で、キリストと十二使徒を表す。フランス司法警察の警部がこれほどあけすけに自分の宗教を認めているとは意外だった。しかし、ここがフランスであることを思い出した。
 この国では、キリスト教は宗教というよりも生得の権利なのだ。
「クルクス・ゲンマタだ」ファーシュがだしぬけに言った。
 ぎくりとして視線をあげると、扉に映るファーシュの目がラングドンを見ていた。
 エレベーターが揺れて止まり、扉が開いた。
 ラングドンはそそくさと外へ出た。ルーヴルの展示室は天井が高いことで知られる。
 広々とした空間へ逃れたくてたまらない。ところが、足を踏み入れた世界は予想とかけ離れていた。
 ラングドンはびっくりして、はたと立ち止まった。
 ファーシュが目を向けた。「開館後のルーヴルははじめてだろうな、ミスター・ラングドン」
 それはそうだ。ラングドンは自分の位置をたしかめようとした。
 ふだんはくまなく照明があたっているのに、この時刻の展示室は驚くほど暗かった。よくある天井からの均質な白色光ではなく、控えめな赤い光が幅木から立ちのぼり、タイルの床のところどころへこぼれているように見える。
 真っ暗な廊下を見渡しながら、この光景は予測できたはずだと思った。大きな美術館はどこでも、夜間は赤い照明を使用しているのがふつうだ。係員が廊下を不自由なく歩くことができる一方、光にさらしすぎて絵の退色が進むのを避けるために、美術品を傷めない程度の微弱な明かりがほどよく配置されている。今夜のルーヴルは重苦しさをまとっていた。長い影があちらこちらにはびこり、いつもなら高々とアーチを描く天井が、低く垂れこめた黒い闇に見える。
「こっちだ」ファーシュが真右を向き、連なり合った展示室へと歩きはじめた。
 そのあとに従って進むうち、ラングドンの目は暗がりにゆっくり慣れていった。周囲では、巨大な暗室で写真を現像するかのように、大判の油絵がつぎつぎその姿を現す。通り過ぎるラングドンを絵のなかの目が追っている。美術館特有の空気のにおい乾燥し、イオン除去され、かすかに炭の混じった空気のにおいが感じられる。見学者の吐き出した二酸化炭素が美術品を劣化させないよう、工業用のフィルター付き除湿機が二十四時間働いているからだ。
 壁の高所に目立つ形で取りつけられた防犯カメラは、見学者に明らかなメッセージを送りつづけるおまえの姿をわれわれは見ている。展示品に手をふれるな。
「本物はあるんですか」ラングドンはカメラを指して尋ねた。
 ファーシュは首を横に振った。「もちろん、ないとも」
 驚きはしない。この規模の美術館を映像で監視するのは、ひどく費用がかさむし効率が悪い。ルーヴルの何エーカーもの展示室群を見張るとなると、送られてくる映像を確認するだけでも数百人の技術者が必要だ。そこで、いまや大規模な美術館のほとんどが〝封じこめ警備〟の手法を採り入れている。泥棒を締め出すのではなく、中へ閉じこめる戦略だ。そのシステムは閉館後に作動する。もし侵入者が陳列品を動かせば、その展示室のある区画の出口が封鎖され、警察が駆けつけもしないうちに賊は檻のなか、というわけだ。
 大理石の通路の先から人の声が響いてきた。前方右側の奥まった大きなアルコーブから聞こえるようだ。明るい光が廊下に漏れている。
「館長の執務室だ」ファーシュが言った。
 アルコーブに近づくと、ラングドンは短い通路の奥にあるソニエールの豪華な書斎をうかがった。あたたかみのある木が使われ、巨匠たちの給が飾られていて、大きなアンティークの机の上には、甲冑をつけた背丈二フィートほどの騎士像がある。数人の捜査官が室内を動きまわり、電話をかけたりメモをとったりしている。そのうちのひとりはソニエールの机に陣どって、ノート型パソコンを叩いている。どうやら今夜の館長執務室は、フランス司法警察の急ごしらえの司令室になったらしい。
「諸君」ファーシュが呼びかけると男たちは顔を向けた。「ヌ・ヌー・デランジェ・パ・スー・オーカン・プレテクスト。アンタンデュ?」
 部屋にいた全員がうなずいた。
 ホテルの部屋のドアにさげる〝起こさないでください〟の札をよく利用していたので、ラングドンは警部の命令の大意をつかめた。何があってもわれわれの邪魔をするな、と命じたらしい。
 捜査官の一団を残し、ふたりは暗い廊下をさらに進んだ。三十ヤード先に、最も人気のあるセクションである・ギャラリーの入口が現れた。果てしなくつづく回廊に、ルーヴルでもとりわけ貴重なイタリアの名作の数々が陳列されている。ラングドンはすでに、ソニエールの遺体があるのはここではないかと推察していた。あのインスタント写真には、まざれもなく・ギャラリーの有名な寄せ木張りの床が写っていた。
 近づくと、入口はまるで中世の城で襲撃を防ぐのに使われたかのような、とてつもなく大きな鉄格子にふさがれていた。
「封じこめ警備だよ」鉄格子に歩み寄りながら、ファーシュが言った。
 暗いなかでも、このバリケードなら戦車も通さないように見える。すぐ前までたどり着き、ラングドンは鉄格子の隙間から、薄明かりに照らされた洞穴を思わせるグランド・ギャラリーをのぞいた。
「先にどうぞ、ミスター・ラングドン」
 ラングドンは振り返った。どうぞって、どこへ?
 ファーシュは鉄格子の下の床を指さした。
 ラングドンは下を見た。暗くて気づかなかったが、ゲートは二フィートはど引きあげられ、中途半端な隙間があいている。
「この区画はまだルーヴルの警備員も立ち入り禁止にしてある」ファーシュは言った。
「わたしの部下もたったいま検分を終えたところだ」開口部を示す。「下をくぐってくれ」
 ラングドンは這わなければ通れない足もとのせまい空間を見つめ、それから頑丈そうな鉄の柵を見あげた。冗談だろう? 侵入者を押しつぶそうと待ち構えるギロチンのようだ。
 ファーシュはフランス語で何やらぼやき、腕時計をたしかめた。そして膝を突き、鉄格子の下に巨?を滑りこませる。向こう側へ抜けて立ちあがると、格子のあいだからラングドンを見た。
 ラングドンはため息をついた。磨かれた寄せ木張りの床に両手を突き、うつ伏せになって前進する。くぐっている途中、ハリス・ツイードの襟が格子の根もとにひっかかり、後頭部を鉄の棒にぶつけた。
 たいした身のこなしじゃないか、ロバート。まごつきながらも、ようやく通り抜けた。立ちあがったとき、ひどく長い夜が待ち構えている気がしてきた。

Unknown

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