THE DA VINCI CODE (CHAPTER 03) Translating...
Mật mã Da Vinci (tiếng Anh: The Da Vinci Code)
là một tiểu thuyết của nhà văn người Mỹ Dan Brown được xuất bản năm 2003 bởi
nhà xuất bản Doubleday Fiction (ISBN 0385504209). Đây là một trong số các quyển
sách bán chạy nhất thế giới với trên 40 triệu quyển được bán ra (tính đến tháng
3, 2006), và đã được dịch ra 44 ngôn ngữ.
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ひんやりとした四月の空気が車窓から吹きつける。シトロエンZXはヴァンドーム広場を横切って南へと走った。助手席にいたロバート・ラングドンは、パリの街に身を貫かれる思いを味わいながら、考えをまとめようとつとめていた。すばやくシャワーを浴びてひげを剃り、そこそこ見られる姿にはなったものの、不安はほとんど鎮まっていない。館長の遺体の恐ろしい絵図が頭に焼きついている。
ジャック・ソニエールが死んだ。
その死には深い喪失感を覚えずにいられない。世間ざらいと噂されていたとはいえ、芸術へ傾ける情熱は広く知られており、だれからも尊敬される人物だった。プッサンとテニールスの絵に秘められた暗号に関するソニエールの著作は、ラングドンも授業の教材として好んで使っている。今夜の面会をとても楽しみにしていたのに、姿を現さなかったのでがっかりしていたところだった。
ふたたびソニエールの遺体のありさまが脳裏に浮かぶ。ご自分で作りあげた、だと? ラングドンは窓の外に顔を向け、残像を振り払おうとした。
街はまさに静寂を迎えようとしている―アーモンド菓子の売り子は屋台をたたみ、レストランのウエイターはごみ袋を道端へ出す。ジャスミンの花香るそよ風に包まれ、深夜の恋人たちはぬくもりを求めて体を寄せ合う。シトロエンは耳障りな二音のサイレンを鳴らしてナイフのごとく車の群れを切り裂き、混沌のなかを堂々と抜けていった。
「あなたが今夜まだパリにいらっしゃると知って、警部は喜んでいました」ホテルを出て以来はじめて、コレ警部補が口をきいた。「ありがたい偶然でしたよ」
ラングドンにとってはけっしてありがたくないし、そのうえ偶然などという考え方はあまり信頼していない。共通点のなさそうな図案とイデオロギーとの秘められたつながりを長年研究してきた者からすれば、世界とは歴史と事件が複雑にからみ合った蜘蜂の巣にはかならない。ハーヴァードの象徴学のクラスでは、よくこう説いていた ― 結びつきは目に見えないかもしれないが、表層のすぐ下にかならずひそんでいる。
「わたしの滞在先はアメリカン大学パリ校から聞いたんですね」ラングドンは言った。
運転席のコレはかぶりを振った。「国際警察です」
なるほど、インターポールか。そう言えば、ヨーロッパの全ホテルがチェックインの際、さりげなくパスポートの呈示を求めるのは、単なるかしこまった慣習ではなく、法律で定められているからだ。インターポールはヨーロッパ内ならいつであろうと、だれがどこに泊まっているかを正確に特定することができる。自分がホテル・リッツにいることなど、五秒で知られたにちがいない。
シトロエンが速度を増しながら街を進んでいくと、はるか右方に、イルミネーションに照らされたエッフェル塔の天を突く麗姿が現れた。それを見て、ヴィットリアを思い出した。半年ごとに世界じゅうのロマンチックな名所で会おうと決めた、一年前のたわいもない約束が胸によみがえる。エッフェル塔はその候補地になってもおかしくあるまい。悲しいかな、ヴィットリアと最後にキスを交わしたのは一年以上も前、騒々しいローマの空港でのことだった。
「あっちのほうは体験済みですか」コレがこちらを見て尋ねた。
ラングドンは顔をあげた。何か聞き誤ったにちがいない。「はい?」
「すばらしいでしょう?」コレはフロントガラス越しにエッフェル塔を指し示した。
「もう体験しました?」
ラングドンは目玉をくるりと動かした。「いえ、まだのぼっていません」
「フランスの象徴ですよ。完壁だと思いますね」
ラングドンは上の空でうなずいた。象徴学者がよく言うことだが、フランスが―男らしさを重んじ、女好きで、ナポレオンやピピン短躯王といった小柄で臆病な指導者を有した国が―高さ千フィートの男根を国家の象徴としたのは、似つかわしいことこの上ない。
シトロエンはリヴォリ通りとのT字路を右折し、名高いチュイルリー公園―パリ版セントラル・パーク―の北側の入口にあたる木深い一角を横に見て進んでいく。
〝チュイルリー〟の名はここに咲く何千株ものチューリップに関係があると思いこむ観光客も多いが、語源から言えばロマンチックとはほど遠い。この公園はかつて、パリの有名な赤い屋根瓦の原料にするために業者が粘土を掘り出した、広く荒れ果てた採掘場だったのだ。
何度か曲がって、人気のない公園にはいると、コレはダッシュボードの下に手を伸ばしてけたたましいサイレンを消した。ラングドンは息をつき、にわかに訪れた静けさを味わった。ヘッドライトが砂利道を青白く照らし、がたつくタイヤが眠りを誘うリズムを刻んでいる。ラングドンはつねづねチュイルリーを聖なる地と考えていた。ここはクロード・モネが構成と色彩の実験をおこなった庭園であり、まさに印象派運動が生まれるきっかけとなった場所だ。しかし今夜は凶事をにおわせる異様な雰囲気が震っている。
シトロエンは公園中央の通りを東へ向かった。まるい池の外べりをまわって、閑散とした道を横切ると、その先に方形の庭園がひろがっていた。巨大な石のアーチが見える。
カルーゼル凱旋門。
かつてここで数々の式典が催された歴史はさておき、美術愛好家たちはまったく別の理由でこの地に敬意を払っている。このあたりからは、世界で最もすばらしい美術館のうちの四つが東西南北にひとつずつ見える。
車の右の窓からセーヌ川の南にあたるアナトール・フランス河岸を望むと、荘厳にライトアップされた古い駅舎のファサードが目に留まる―かのオルセー美術館だ。左へ視線を向けると超近代的なポンピドゥー・センターの屋根がかすかに見え、その下には近代美術館がはいっている。後方、つまり西の木々の向こうには古代エジプトのラムセス二世のオベリスクがそびえ、そのかたわらにジュー・ド・ポーム国立ギャラリーがある。
そして正面、つまり東側の門のすぐ先に見えるルネッサンス様式の石の宮殿こそ、世界で最も有名な美術館だ。
ルーヴル美術館。
この壮大な建造物全体を一望にとらえようとするわが目のむなしい試みに、ラングドンはいつもながらかすかな驚きを覚えた。美術館は圧倒的なまでに広い敷地を占め、堂々たるファサードが城砦のごとくパリの空を切りとっている。巨大な馬蹄形をしたルーヴルはヨーロッパでいちばん水平方向に長い建物であり、エッフェル塔を寝かせて三つ並べても足りないほどだ。美術館の各棟に囲まれた百万平方フィートの広場でさえ、ファサードの大きさが漂わせる風格にはかなわない。ラングドンはルーヴル全体を隅々まで歩いたことがあるが、信じられないことにそれは三マイルもの道のりだった。
この美術館に展示された数万の作品をすべて鑑賞しようとすれば約五週間かかるそうだが、旅行者のほとんどは省略コースをとる。ラングドンはそれを〝ルーヴル・ライト〟と呼んでいた。最も有名な〈モナ・リザ〉、〈ミロのヴィーナス〉、〈サモトラケのニケ〉の三点を観るために、館内を全速力で駆け抜けるわけだ。かつてコラムニストのアート・バックウォルドが、この三大傑作を五分五十六秒で観てまわったと誇らしげに書いていた。
コレは携帯用無線機を取り出し、早口のフランス語でまくし立てた。「ムシュー・ラングドンが到着しました。あと二分でそちらへ」
聞きとれないが、雑音混じりの応答が返ってきた。
コレは無線機をしまい、ラングドンに向きなおった。「正面玄関で警部がお迎えします」
広場の自動車進入禁止の標識を無視し、コレはアクセルを踏みこんで一気に縁石を乗り越えた。ここからはルーヴルの正面玄関がはっきり見える。離れていても、その堂々たる姿を見まがうことはない。それは、ライトアップされた噴水をともなう七つの三角形の池に囲まれている。
ピラミッド。
ルーヴルの新しい玄関は美術館そのものと同じくらい有名になった。物議を醸したネオモダンのガラスのピラミッドは、中国生まれのアメリカ人建築家I・M・ペイの設計によるもので、ルネッサンス風の前庭の威厳が損なわれたと感じる伝統主義者たちから、いまだに嘲笑されている。ゲーテは〝建築は凍れる音楽である〟と語ったというが、ペイを批判する者はこのピラミッドを〝黒板を引っ掻く爪〟と評した。一方、進歩的な支持者たちは、ペイによる高さ七十一フィートの透明なピラミッドを古代建築と近代的手法のみごとな融合と見なし、古きと新しきを鮮やかに結びつけて、ルーヴルをつぎの千年紀へと導くものだと絶賛した。
「あのピラミッドをどう思います?」コレが訊いた。
ラングドンは顔をしかめた。フランス人はアメリカ人にこの質問をするのが好きらしい。もちろん、これは狡猾な質問だ。ピラミッドが好きだと言えば趣味の悪いアメリカ人だと思われるし、きらいだと答えればフランス人への侮辱になる。
「ミッテランは大胆な人物でしたね」ラングドンはどちらとも聞こえるように答えた。ピラミッドの制作をあと押しした故フランソワ・ミッテラン大統領は〝ファラオ・コンプレックス〟だったと言われる。独力でパリをエジプトのオベリスクや美術品や工芸品で満たしたミッテランは、あまりにもエジプト文化を熱愛したため、いまだに国民から〝スフィンクス〟と呼ばれている。
「警部のお名前は?」ラングドンは話題を変えた。
「べズ・ファーシュです」コレはピラミッドの入口へ車を寄せた。「われわれは〝ル・トーロー〟と呼んでいますが」
ラングドンはちらりと横を見た。フランスの男はみな、神秘的な動物の愛称を持っているのだろうか。「上司を〝牡牛〟呼ばわりするんですか」
コレは眉をあげた。「フランス語がずいぶんおできになるのですね、ムシュー・ラングドン」
フランス語はからきしだめだが、黄道十二宮にまつわる図像学ならよく知っている。金牛宮と言えばかならず牡牛座を指す。世界じゅうどこでも、占星術の象徴は同じだ。
コレは車を停め、ふたつの噴水のあいだに見える、ピラミッド側面の大きな扉を指さした。「あそこが入口です。それでは、ムシュー」
「わたしひとりで行けと?」
「わたしの任務はあなたをここまでお連れすることです。ほかの仕事がありますので」
ラングドンはため息をつき、車をおりた。しかたがない。
コレはエンジンを吹かして走り去った。
ひとり立ちつくしてテールライトを見送りながら、ラングドンは思った。いまなら考えなおして広場から退散し、タクシーをつかまえてホテルのベッドにもどることもできる。だが、そんな真似をしてもろくな結果にならないと、何かが告げていた。
噴水のしぶきに向かって歩いていくうち、別世界への目に見えぬ境界線を踏み越えている気がして不安が募った。夢を見ているかのような今夜の出来事が脳裏によみがえる。二十分前はホテルの部屋で眠っていた。いまはスフィンクスの建てた透明なピラミッドの前で、牡牛と呼ばれる警察官を待っている。
サルバドール・ダリの絵のなかに囚われているのだろうか。
ラングドンは巨大な回転ドアへと進んだ。その向こうのロビーはほの暗く、人の姿はない。
ノックすべきか?
ハーヴァードの名にし負うエジプト学者のなかに、返事を期待してピラミッドの扉をノックした者などいるだろうか。ガラスを叩こうと手をあげたとき、暗がりの下方から人影が現れ、カープした階段をのぼってきた。ずんぐりして浅黒い、ネアンデルタール人を思わせる男だ。色の濃いダブルのスーツが、広い両肩に引っ張られている、頑丈そうな脚を動かして、威厳たっぷりに近づいてくる。携帯電話で話していたが、たどり着くころには通話を終え、ラングドンに中へはいるよう手招きした。
「わたしはべズ・ファーシュ」ラングドンが回転ドアを押して進むと、男は言った。
「司法警察中央局の警部だ」
ラングドンは手を差し出した。「ロバート・ラングドンです」
ファーシュの特大の手が、ものすごい力でラングドンの手を握った。
「写真を見ました」ラングドンは言った。「お聞きしたところでは、ジャック・ソニエールが自分であんな―」
「ミスター・ラングドン」ファーシュの漆黒の瞳が見据える。「きみが写真で見たのは、ソニエールがしたことのほんの手はじめにすぎない」
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